【恐るべし】デミアン・チャゼル監督のオリジナル脚本作『ラ・ラ・ランド(LaLaLand)』の熱気と緻密な計算

アカデミー賞6部門受賞をはじめ、世界中のあらゆる賞を総ナメにし、YouTubeでは踊ってみた動画があふれるまでに人気の映画『ラ・ラ・ランド(LaLaLand)』

ジャズミュージカルとしては異例の大ヒットで、老若男女誰にとってもハッピーな仕上がりの作品になっています。

ストーリーをざっくり言うと、ハリウッドの地で女優志望のミア(エマ・ストーン)とジャズミュージシャン志望のセブ(ライアン・ゴズリング)という2人の夢追い人の愛と挑戦の物語。

ハリウッドにはスターになる夢を追う若者たちがたくさんいますが、その夢見がちな人がたくさん集う街ということで嘲笑も込めて言われるのが「LaLaLand」という言葉。それがそのまま映画のタイトルになっています。

ストーリーは2人の愛、夢への挑戦と挫折を描くという、言ってしまえばよくある話。

それでも十分に話の展開は面白いんですが、それ以上にこの映画の醍醐味は何といってもジャズミュージカルと言われるようにダンスと音楽。映画の中の登場人物から熱気が伝わって来ます。

そのくせ、ジャズミュージカルというジャンル映画に閉じず「あぁ生きていたらそういうことあるよね」と思わず感慨に耽ること間違いなしのストーリーテリングです。

この映画の魅力を興奮醒めやらぬうちに書いておきたいと思います。

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音楽、ダンス、計算されたカメラワークがとてつもなくよい

音楽とダンスがとても楽しい映画ですが、例えば予告編にも出てくる「高速道路に並ぶ車の上に大勢の人が上って踊るシーン」なんかはとても面白い映像です。車の上の人と高速道路から見える景色がとても爽快で奥行きのある映像になっています。

これ、なんとワンカットで撮影しているんですね。一切カットなく一連の動きを撮影しているんです。

しかも、この高速道路はロサンジェルスの実際の高速道路を一時封鎖して撮っています。

役者(ダンサー)が飛び跳ねたりバク転していたりと非常に動きのあるシーンですが、これを高速道路を封鎖してタイトなタイムスケジュール(だったと思います)で、ワンカットでやり切っているんです。圧巻のダンスと構成、カメラワークです。

このシーンのダイナミックさというのは是非大画面で見ていただきたいところですが、リハーサルシーンの様子が公開されていますのでご紹介。

リハーサルは高速道路ではなく、駐車場に並べた車を使って、デミアン・チャゼル監督自身がスマホで撮影して動きを確認している様子がみられます。緻密な計算なくしてこんなことできませんよね。

本編の前にこれを観てもきっと楽しめると思います。

ミア(エマ・ストーン)が友だちと一緒にパーティーへ出かけるところのダンスシーンや水中からプールの周りで踊る人をグルグル回りながらのカット、ミアとセブ(ライアン・ゴズリング)がジャズクラブでのダンスとピアノのかけ合いシーンなどの撮影の様子が公開されていて、まさにジャズミュージカルという音楽とダンスの美しい演出の裏側が垣間見れます。個人的にはこれだけで十分泣けます。

現代における「オリジナル脚本」という素晴らしさ

なんとこの作品はデミアン・チャゼル監督(Damien Chazelle)のオリジナル脚本の作品です。これがどれだけ凄いことかわかりますか?

これは私のように映画好きということに関係なく気づく方もいると思いますが、テレビドラマとかで「原作:○○○○(小説やマンガ)」の作品ということを結構耳にすることが多いはずです。

今やテレビドラマや映画といった映像コンテンツは、売れた実績のある小説やマンガを映像化するという場合が非常に増えています。これは日本に限った話ではありません。スパイダーマンやアベンジャーズ等ハリウッド作品もコミック原作の作品が非常に多いのです。

それは意思決定プロセスを考えればそうなるのも頷けます。

映画の製作費をいかに調達するかを考えると、一度売れたことのある原作であれば、その原作のファンが少しは観に来てくれたり、原作を読んだことはないが知っている人も比較的来てくれるだろうという算段ができるのでそれをもとに出資を募りやすいでしょう。一方で、知名度もあまりない映画監督のオリジナル脚本といったらどれだけの人が観客となってくれるでしょうか。原作というある種の保険がある場合に比べて出資は集めにくいはずです。

さて、このデミアン・チャゼル監督ですが、映画界では非常に若い監督で1985年生まれの32歳です。ラ・ラ・ランド制作時は30〜31歳くらいです。そして、年齢からもわかるように監督作品は多くはなく、本作がまだメジャー2作目なんですね。

前作『セッション(原題:Whiplash)』がメジャー1作目にしてアカデミー賞作品賞にノミネートという偉業を成し遂げた人でもありますが、それにしてもです。

『セッション』もオリジナル脚本だったのでこれまた凄いのですが、まだまだメジャー2作目の彼がまたもやオリジナル脚本で映画制作のチャンスを得るというのは非常に珍しい例です。

製作費はなんと30億円(3,000万ドル)です。

といっても、ハリウッドではそこまで大きくない予算です。『アバター』とかパイレーツ・オブ・カリビアンシリーズとかは200億円を超えていますが、それらは超有名監督だったりディズニー作品だったりとワケが違います。邦画でいうと製作費20億円を超えると大作扱いで『進撃の巨人』等も20億くらいと言われています。

ちなみに、『セッション』は3億円強(330万ドル)の製作費でハリウッドでは低予算映画の扱いです。

そんなキャリアはまだ浅い彼のオリジナル脚本作品にこれだけの製作費を任せるというのには驚きます。私は『セッション』を見てこれは逸材が出てきたと震えましたが、これだけオリジナル脚本が少ない現代の映画業界においてなかなかできることではありません。

なぜ彼がチャンスを勝ち取り、世界的な大ヒットという成果を挙げられたか。後述する過去のインディーズ作品を見ると、その理由が垣間見えるようにも思えます。

デミアン・チャゼル監督の作風

彼の作風は、間延びが一切ないシナリオ、絵つなぎをしています。

小物や手元に寄ったカットがいちいち格好いい。

例えば、ドラムスティックをバッグに入れるといった動作は比較的繋ぎのカットとして使われます。場面の転換等で間を持たせたりといった使い方をしますが、こういったカットを心地よいリズム感でつないでくる。だから、だれることがありません。

音楽を扱っている映画ということもあり、音楽の演奏シーンはまるでミュージックビデオを見ているような感じです。割とスタイリッシュなほうの気持ちいいリズム感を持っていて、演奏シーンに限らず90〜120分の映画全体がミュージックビデオのようにコントロールされたリズムを終始感じます。

この作風というのは、音楽監督のジャスティン・ハーウィッツ(Justin Hurwitz)の影響も大きいように思います。彼らは、デミアン・チャゼルが初めて監督した長編のインディーズ作品『Guy and Madeline on a Park Bench』からタッグを組んでいて、これで3作目です。

同じハーバード大学のようですので、きっとこの公表されている長編3作品以外にも短編等で一緒にやってそうですよね。

『Guy and Madeline on a Park Bench』を見ると分かるのですが、これジャズミュージカル映画なんですね。この人は本当にジャズとダンスが好きなんだと。監督自身、一時期は本気でジャズドラマーを目指してたようですからね。

しかも、このときから前作『セッション』と今作にいたるまで音楽はジャスティン・ハーウィッツ。この人たちなら何か任せたくなりませんか。

https://www.youtube.com/watch?v=KJUzALdI–k

前述のダンスと楽器の掛け合うシーンはこのときから健在です。あのカメラを大きく素早く振り回すカメラワークはデミアン・チャゼル監督の好みっぽいですね。

あと、彼らの作品では、トム・クロス(Tom Cross)というエディター(編集)の存在も欠かせないでしょう。彼は『セッション』の編集も手がけていますが、彼のこの編集力というのも間違いなく重要です。

きっと映画のリズム感のベースはデミアン・チャゼル監督(脚本も兼任)が持つものだと思うのですが、その彼のリズム感を映画に体現することができるのはこのトム・クロスあってのことなんだろうなと思います。セッションを見ればわかりますが、こちらも心地よいリズム感でカットが切り替わります。

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