前回のバトロイド編集後記の続きです。
既に動画でバトロイドが動く様子をご覧になった方はロボットのイメージが変わったのではないでしょうか。
今回もあのときの感動をここに記しておきたいと思います。
目次
人間の機能を拡張する
バトロイドは人間の力を何倍にも増幅してくれます。
それも、人間の関節の動きに近い腕の滑らかさを持って、今何がロボットの手先にあるかを人間に教えてくれもします。
人間以上のパワーを出すことを可能にし、人間の機能を拡張しているのですね。
思えば、私たち人間はその進化の過程で様々なものを道具に仕立てそれを使いこなしてきました。
古くは石器を作り出し、それを使って狩猟をし、土器をつくり農耕生活を営んできました。
そもそも、なぜ人間は石器を生み出し土器を作ったのでしょうか。
石器が生み出されたのは人間の食を満たすために動物を狩るためでした。
動物を狩るのは素手でもよかったでしょうが、それだと獲物を仕留めるのには力が足りなかったり時間がかかるものです。そうして生み出されたものが先の尖った石器であって、それは人間の殺傷能力(狩猟能力)を高めるものでした。
つまりは、私たち人間は道具を生み出す技術を発明し、その道具を使うことで人間に元々備わっている能力(機能)を拡張させているのです。
技術の本質とは人間の機能の拡張にあるのです。
■映画『2001年宇宙の旅』より。人間が生み出す技術の発展を象徴するシーン(大腿骨[武器]→ 宇宙船 )
人間が生み出す技術は常に危険と隣り合わせ
人間の機能を拡張する最たる例が自動車です。
皆さんは車を運転したことがあるでしょうか。車は運転免許さえ取得すれば誰でも運転ができるように、車は現代で最も使われているモビリティ(移動手段)です。
これは人間の歩行するという移動方法を飛躍的に拡張させるもので、私たちは車を使えば遠い場所へも行くことができるようになりましたし、短時間で目的地へ移動することができるようになりました。
一方で、この車というのは高速で動く鉄の塊です。
1t以上の鉄の塊が時速50kmとかで街中を走っているのです。大変便利なものですが、一方では毎年何万人もの死傷者を生み出している危険なものでもあります。
ですが、人間は移動手段としての価値を評価し車を使い続けています。もちろん、悲しい事故が起きないよう技術開発を絶えず繰り返しながら。
人間が生み出してきた技術は常に危険が隣り合わせですが、その危険を低減するのもまた人間が生み出す技術なのです。
AIやロボットは人類を支配はしない
技術には危険が付きものですが、AIやロボットの技術にはどんな危険があるでしょうか。
前回、著名な天体物理学者のスティーブン・ホーキング博士が「AI(人工知能)は人類の未来において望ましいものではない」という警告を発したという話をしました。
一方で、バトロイドMMSEBattroidはマスタースレーブという構造で人間が操作するものであり(自律型の)AIとは違うとも既に書きましたが、ここではまた話を広げて俯瞰的にAIやロボットについて考えてみたいと思います。
これからますますAIやロボットは開発が進み実用段階に入っていく中で何かしら危険は発生するでしょう。
しかし、ホーキング博士の発言を発端に巻き起こった議論、すなわち、SFで描かれるような「AIが人類を支配する」というターミネーターの世界は数十年単位では起きないと思っています。
彼がどれくらい先の未来を見ているかという時間の尺度がそもそも私と違うかもしれませんし、AIやロボットの最先端研究を知っているとまた違うのかしれません。
しかし、ITやコンピュータを扱う業界に身を置く一介の人間としてそう思います。
というのも、AIが人類を支配するか否かのポイントになるのは”自我”を持つかどうかだと思うからです。
AIを構成するコンピュータ、ソフトウェアは確かに膨大な情報処理が可能ですが、それが発達して人類を支配するような”自我”までは持ちえないと思っています。
人間がコンピュータに起因する事故で負傷したとしても、それはあくまでコンピュータ障害、誤作動の範疇であったり、悪意のある人間の不正操作であって、コンピュータが自我を持って人類に危害を与えようとするわけではありません。
「人間が生み出す技術」というのはそういうものです。
最近はコンピュータの障害が多大な影響を与えるようになったと言われますが、それは人間がITやコンピュータを使って昔よりも世界中の事象を情報として知覚し制御するようになったからです。
コンピュータをベースとする社会インフラに大きく依存するようになったことで、コンピュータの障害や誤作動、不正操作の影響範囲が広がっているだけであって、コンピュータが意思をもって悪戯するわけではありません。
AI兵器についても、確かに「人間の判断を介さない自律型兵器の使用は、戦闘開始の閾値を低くし、結果的に大規模な人命損失につながる」ことはあると思います。
おそらくAI兵器の基本的な仕組みは、目の前の人間を攻撃していい軍人なのかそれとも一般市民なのかを判別するのに、武器の所持の有無を確認するというものだと思います。
このAIが武器の所持を正確に判別することができずに丸腰の一般市民を軍人と勘違いし攻撃するといった事故・事件が発生することが考えられます。
この問題は非常に難しく、AI兵器は歓迎するものではありません。
しかし、この難しい問題を矮小化するつもりはありませんが、仮にこういった事故が起こったとしても、それはAIの認識力の不足に起因するもの、誤作動の範疇にしか過ぎません。
バイオテクノロジーのほうが怖い(複製される自我)
一方で、バイオテクノロジーは違うと思います。
話は逸れますが、IPS細胞がヒト型クローンを生み出す技術になりえるとして、倫理的な問題が議論されています。
このクローンの問題は以前よりES細胞の研究やクローン羊ドリーの誕生時から散々言われていることですが、このクローンなどのバイオテクノロジーのほうがAIよりも遥かに危険だと思っています。
なぜなら、複製されるのは人間であり、複製された彼らは自我を持っているはずですから。
それ以外にもバイオ関連でいえば、鳥インフルエンザやMARSとかのウイルスが猛威をふるっています。このウイルスというバイオの脅威のほうが現実味があると思っています。
感染するとゾンビ状態になり人を襲う世界を描く『ワールド・ウォーZ』という映画がありましたが、このようなバイオ系の話のほうが怖いです。ウイルスの脅威のほうが人類が対処すべき喫緊の課題だと強く思っています。
以前、テスラ・モーターズのCEOであるイーロン・マスク氏があるインタビューで「なぜ(今後注目される分野である)遺伝子技術に参入しないのか」という記者の質問に対して、「ヒトラーの問題があるから」と語っていたことには合点がいったものです。
それこそソフトウェアの力で自動車業界に旋風を巻き起こしているテスラを率いるイーロン・マスク氏はAIの開発に近いところにもいます。そんな彼が遺伝子改良技術に参入しない理由として、ヒトラー(人間)の問題を挙げているわけです。
バトロイドは人型ロボットの実用段階にある
本題に戻りますが、人型ロボットの技術を実用段階とするために必要なものは人間が扱いやすい操作性と安全性を担保する技術だと思っています。
その意味で、金岡博士の研究・開発するバトロイドMMSEBattroidは人型ロボットの実用化に向けた技術を備えている素晴らしいものだと思うのです。
バトロイドは人間のパワーを人間に近い感覚を備えつつ拡張しているものです。
この「人間に近い感覚を備えつつ」というのがポイントで、将来的には、人間に近い感覚を備えているからこそ増幅されたパワーを人間がうまく使いこなせて、ロボットの感覚を人間が知覚できるという技術を備えているからこそ安全にロボットを扱うことができ、広く活用されていくのではないでしょうか。
バトロイドが生み出す新たな価値
では、バトロイドで人間はどんな新しいことができるのでしょうか。
真っ先に思い浮かぶのは「人間にとって危険な場所での作業」です。例えば、建設現場での工事、ここ数年問題となっている福島第一原発での作業といったもので以下のようなものをイメージしています。
その1 建設現場での作業
建設現場であれば足場を組んで、クレーンで物を吊って運んでいるその近くや高い場所で人が作業しています。
命綱やクレーン等も緊急停止する仕組みがおそらくあるのだと思いますが、人間にとって危険な場所であることには変わりません。
ここにバトロイドがあったらどうでしょう。それも巨大化したバトロイドだったら。
巨大なバトロイドが軽々と部材を持ち上げ、指定の場所に積み上げていく。その部材を手先の器用さをもって建築物を組み上げていく。
その光景はまるで小さい子供がレゴブロックを組み立てるようなものです。こんな使い方ももしかしたらできるんじゃないでしょうか。
その2 福島の原発等危険地域での作業
東日本大震災で発生した福島第一原発問題。
建屋内には高濃度の放射性物質が充満していて人間が立ち入ることができません。核分裂を繰り返す核燃料棒を格納する原子炉をいかに制御するかが課題でした。
当時もロボットが投入され、放射線量の計測や瓦礫の除去作業等に使われていて、少し前にも原子炉の格納容器内の核燃料棒を取り出す作業に日立GE製のロボットが使われるという報道がありました。
ここにMMSEBattroidがあればと思うのです。
この報道によると、原子炉の格納容器の貫通路を棒のような形でくぐり抜け、その後移動しやすいように変形し格納容器内を動いて、温度や放射線量を測るとのことですが、核燃料を取り出す工法についてはこれからのようです。
ここでMMSEBattroidの繊細に動く手元があればより便利ではないでしょうか。
格納容器にバトロイドの腕を突っ込んで核燃料棒を掴んで取り出すのです。人間がものを掴む動作そのものです。
「ものを掴む」という機能はMMSEBattroid ver.0.1には現時点では未搭載ですが、金岡博士が開発したパワーエフェクタの指で掴む機能が実装されれば実現できると思います(いずれMMSEBattroidに搭載すると仰っていました)。
この作業では格納容器内の核燃料の状態把握が必要と思います。
MMSEBattroid ver.0.1ではカメラは頭上に付いているため、格納容器内の外側にいるバトロイドからは確認ができません。
この格納容器内の視覚をバトロイド自体に実装するのであれば、格納容器内に突っ込む腕にカメラを取り付ける開発が必要ですが、バトロイドに実装するのではなく、先述の日立GE製ロボットの視覚で補足しながらというやり方もあると思います。
いずれにしろMMSEBattroidの腕の滑らかさと手先の器用さは有用ではないでしょうか。