IoT普及のために乗り越えるべき課題〜ソフトバンクのARM買収で考えたこと、コネクトフリーやソラコムへの期待〜

本日、かねてから発表されていたソフトバンクによる英国の半導体設計大手のARMの買収手続きが完了を迎えました

このソフトバンクのARM買収については7月の発表時、多くの方が驚いたのではないでしょうか。僕もこの発表を聞いたときはあまりに予想外のことで、びっくりしました。これから来るであろうIoTの時代の覇権を握るための大胆なM&Aというのはわかるものの、どんなシナジーがあるのかと問われると答えに窮します。

2012年の米国スプリント買収の場合は、想像できなくもありませんでした。それに、事業的にも通信キャリアという同事業だったため、日本と米国の違いはあるにせよ、オペレーション的にはソフトバンクはできるだろうし、通信設備の共同購買等バイイングパワーも大きくなって低コストでの調達ができる。結果的に事業シナジーはあるだろうと考える方が多かったのではないでしょうか。

一方で、今回の買収は巨額の買収額に注目が集まってはいても、事業シナジーに関しての議論はあまり盛り上がっていない気がしています。ARMの一般的には全くと言っていいほどが知名度がなく、IT界隈でも情報感度が高い人しか知らない企業だからでしょう。

ソフトバンクの過去の巨額買収をみると、発表時には毎度株価は大幅下落していて投資家からのファーストインプレッションは必ずしも良くないのですが、結果的に巨額買収はどれも成功させていることから、何となくうまくいくんじゃない?というのが大方の見方でしょうか。

一体、ソフトバンクはARMを買収してどんな展開を考えているのでしょうか。今のところ合点のいく意見を見たことがなくて、僕自身で少し考えてみました。IoTについては公私ともに関わっていることもあり「もしかしたらこういうことなんじゃ?」と思ったことを書いています。

IoT時代=通信機能付きのセンサーに囲まれた生活

まず、IoTについて。IoT(Internet of Things)というと、要はモノ同士が互いにインターネットを経由して爆発的に情報のやり取りが行われる時代で、これまでは収集されることがなかったり、少ない頻度だったデータ収集が盛んに行われるようになる時代です。

今使われているインターネットというのは、人間が能動的に動くことを基本としています。検索する、メールを送るというアクションをPCやスマホ経由でコンピュータに指令を出して動き始めるものです。もちろん、そういった中でも普段使っているスマホの中では、アプリの自動更新をやっていたり常時インターネットを通じて情報のやり取りをしますが、IoT時代はモノ同士が自律的に相互に通信をする世界で、桁違いに通信が発生します。

IoT時代では私たちは通信機能付きのセンサーに囲まれた生活を送ることになります。生活の様々なものがセンシングされ、そのデータがインターネットのクラウド基盤に送られ、蓄積され、加工・分析されていきます。

IoT普及に向けた課題

今、IT界隈ではIoTのビジネスが大変盛んですが、まだ普及期に至るほどは進んでいないのが実情で、多くの企業が使い方を模索している段階です。

センサーを取り付けて収集したデータをどのように加工すれば、どんなことが見えてくるのか。どんな価値が生まれて、自社の事業にどう活用できるのか、その未来像を描けている人はごくわずかでしょう。

IoTを考える上で、センサーからの情報収集の段階で大きなネックがあります。それがネットワーク。

センサーをあちこち付けるのはいいが、センサーが取得したデータをクラウドと送受信する際には通信機能が必要で、必ずLTEやWiFiといったネットワークが欠かせません。しかし、そのネットワークというのが、IoTという「センサー同士がひっきりなしにデータ送受信をやる」のにはまだまだ不十分なのです。

どういうことかというと、これから爆発的に増えるセンサーが常時通信を行おうとしても、電波が届かなかったら使えないし、使えてもセンサー同士の通信にしては料金が高過ぎるということです。

電波が届かないということは誰しも経験があると思います。地下の居酒屋やバーに入ったらLTEが入らないとか普通にありますよね。お店がWiFiを用意してくれてるといいですが、それも店次第でまちまちです。東京メトロや大阪の地下鉄はLTEが入るようになりましたし、WiFiが用意されていますが、それは大勢の人が行き交う公共の交通機関だからできることであります。

人間の行動をもっと捕捉しようとセンサーを取り付ける場所はこれから増えていきますが、その場所にLTEが入るかは運任せ、WiFiが用意できないではセンサーを入れるのも一苦労です。

そういった電波が届くかどうかという場所問題と、もう一つが価格体系の問題。

まだまだ人間が使うことを想定したもので、モノ同士が相互に会話するには高過ぎるのです。

今基本的にはLTE網を使おうとスマホやタブレットの格安SIMを使えば、月額1,000円以下でデータ通信が可能です。このほど発表されたLINEモバイルの格安SIMは1GBのデータ通信量で500円/月から使えます。

DMM mobileなんかも480円/月で1GBデータ通信使えたりしますが、まだまだ高いのです。モノ同士のインターネットには1GBはオーバースペックでしょう。

1個のセンサーのデータを送受信するためだけに月額500円を出すという人はほとんどいないはずです。たとえ1つのSIM(回線)に複数のセンサーデバイスを接続しようと、スマホをルータ代わりにしたりするとそのスマホ代もかかってきますし、場所の問題から電波が届かないといったこともあるはず。

IoT時代で無数のセンサーデバイスを使う時代では、スマホやルータなんてものを回線接続のために使っていてはコスト高になってしまいます。

ソフトバンクが仕掛けそうなこと

そう考えると、IoT時代で利用されるモノというのは、SIMが直接入れられて通信ができてセンシングも可能なラズベリーパイのような汎用機器で、その1個1個のデータ通信量は少ないものがたくさん置かれてるというのがIoT時代の景色のように思います。

1個当たりの回線利用料は安いが、それをたくさん置いて初めて今の価格感とトントンになるといった感じ。

そういった観点でこの買収劇を眺めていると、携帯通信網も光回線網も持っているソフトバンクがARMを買収してこれから挑戦しようとしていることがぼんやり見えてきた気がするのですが、いかがでしょうか。

旧エルピーダメモリの社長を務めていた坂本幸雄氏はARM買収に否定的な意見ですが、

坂本氏の意見としては、IoT時代の製品としては自動車向け製品が考えられるが、ARMは自動車のマーケットは食い込めていないじゃないかと言っています。確かに、この自動車制御機器の話は孫さんの買収発表の会見でも触れられていましたが、

孫さんは「家庭やオフィスのあらゆるものがインターネットに繋がる」と話していたが、これもARMのCPUとはあまり関係がない。大量にARMの半導体を必要とするIoT製品が今後生まれるか、今のところ相当な疑問を感じると言わざるをえない。

半導体設計資産のライセンス供与というARMの既存のビジネスモデルを前提にすると「大量にARMの半導体を必要とするIoT製品が今後生まれるか」という話になると思います。それこそ先に例として挙げていた自動車向けに半導体製品を販売するイメージだと思いますが、ここを自社サービスのための製品開発と考えると変わってくるのではないでしょうか。

既に携帯通信網も光回線も持っているソフトバンクが自社のネットワークを拡大するフロントエンド(プロバイダエッジ)として、ARMベースの次世代デバイスを作るということも考えられます。

IoTというモノ同士の自律相互的なインターネット通信をいかに整備するかという観点から言うと、携帯網や光回線をもっているソフトバンクが次世代のIoTデバイスを作ってばら撒いて普及の足掛かりにするというのは、意外とあり得るシナリオだと思います。昔、ADSL回線を街頭で配りまくっていたみたいに。

時代を先取りするIoTベンチャー

さて、IoTにおけるネットワークの問題についての私見を絡めながら、ソフトバンクのARM買収について述べてきましたが、僕なんかが思っている以上に、IoTというのは進んでおりまして、このことを解決しようというベンチャーも存在しています。

代表的なのがソラコムコネクトフリーといった企業です。

彼らの料金体系はこんな感じになっていて、、

例えば、コネクトフリーのIoT139という商品の価格を見てみると「月額費:139円(固定)+0.6円/1MB、初期費:580円」となっています。この価格感です。今の大手キャリアとは全く比べ物になりませんし、格安SIMよりも安いです。

こういったサービスをソフトバンクはやると思っています。大手キャリアの中では真っ先にやるでしょう。

ちなみに、コネクトフリーにはこの夏、元DeNAの春田真氏が代表取締役社長兼COOに就任しています。要注目の会社ですね。

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