これまで何回かにわたって、IoTについて語ってきました。
その中で口酸っぱく言っているのが、IoT普及の喫緊の課題はネットワークだということ。
ネットワークが整備されないと、IoTのデバイス(センサー)が活かせません。
こう書くと「ネットワークは整備されているのでは?」「今こうして使っているLTEがあるじゃないか」という疑問をお持ちになる方もいると思うので、今回は現在のネットワークがいかにIoTに適したものではないかを書いておきたいと思います。
現在のLTE網は人間様専用のリッチなネットワーク
現在のネットワークというのは、人間がスマホやパソコンを操作して通信する前提で設計されていて、モノが使うことに適したネットワークではありません。
この記事をご覧になっているあなた(人間)は、ネット上の記事を見たり、TwitterやFacebookを使ったり、LINEでスタンプや写真を友人に送ったりYouTubeで動画をご覧になっていることでしょう。
このとき、どれくらいの通信が発生しているかというと、ざっくり数百KB(キロバイト)〜数MB(メガバイト)の通信が常時発生しています。
そうした通信の積み重ねで、一ヶ月間に数GB(ギガバイト)もの通信を使用しているはずです。
この数GBの通信に幾ら掛かっているかというと、格安SIM(MVNO)で1GB/月とか2GB/月であれば500円〜1,000円台ですが、docomo、au、Softbankの三大キャリアと契約していれば7GB/月で8,000円以上かかっているはずです。
一方、IoTと呼ばれるモノの通信量というのは、(機器や使い方によりますが)一ヶ月間でも数KB(キロバイト)の通信で済むものがあるような世界です。
その程度の少ない通信に、普段私たちがスマホで使うな金額を払えますか?という話です。
現在最安値のプランは1GB/月で500円でありますが、それを数KBしか使わないIoTセンサー用に準備したとしてもだいぶ余りがあるように思いませんか?
そもそもIoTというのはデバイスをばら撒いて情報を集めようというものです。センサーをあらゆる所に設置して通信させてデータを桁違いに集めようとしたときに、SIM一つ当たりの通信料が月間500円もしていたら、なかなかばら撒けません。
今のネットワークというのは、端的には
人間様専用のリッチなものであって、モノが使うには贅沢すぎる!
ということなんですね。
IoT時代にあるべきネットワークの形を考えると、SIM一つ当たりの通信量は少なくていいから料金も今よりうんと安く抑えたものであるべきで、そうしてやっとセンサーを色々な所にばら撒けるようになるのです。
IoT時代のデバイス数は桁が違う
さて、ここからはIoT時代にどれだけデバイスが増えてくるかというのと、現在のネットワークがそれらをカバーできるのかを考えてみたいと思います。
現在世界のスマホ利用者数は20億人ぐらいと言われています。世界人口72億人のうち4分の1以上がスマホを持っている計算になります。
携帯電話の契約者数(2G、3G、4G[LTE])を見ると2015年に75億。
この数字は2台持ちの人間とかも含めた数ではありますが、これは基本的に人間が所有する通信機器(スマホ、ガラケー)からの通信を想定したものです。
一方、IoT時代のデータ通信は世界中のあらゆるところにセンサー(デバイス)が設置され自律的にインターネット通信するというものになります。
その数はというと、いろいろな推計が出ていますが、総務省の推定では2020年までに530億個のIoTデバイスが増えるといわれています(元々はIHSテクノロジーの推計)。
2035年までに1兆個を超えるというのが孫社長ですね。
孫社長がARM TechConで講演、「1兆のIoTが人類の進化を加速」
要はモノ中心のインターネットではこれまでと接続するデバイス数の桁が違ってくるわけです。
しかし、携帯キャリア側の設備であるLTE網はこれほど多くのデバイスが接続してくることを想定しているわけではないんですね。
既存のLTE網だとどれくらいのデバイスを接続する計算なのかというと、ソフトバンクがNB-IoTを使ってスマートパーキングのデモを行った際の発表スライドで参考数値が出ていますので引用させてもらうと、「1000デバイス/1基地局」らしいです。
NB-IoTを推進するファーウェイ、ソフトバンクのNB-IoTを使ったスマートパーキングのデモ
これが日本の全キャリアの携帯基地局数(2014年)は約58万局、そのうち20万局がLTE基地局のようです。
2014年4月10日 携帯基地局の今(2):約58万局に達した携帯基地局、そのうち約3分の1がLTE基地局
単純計算でLTE基地局20万局でカバーできるのは、2億デバイスの接続です。
この数字に対して、日本の人口は1億2000万人程度なので仮に全員がLTE通信のできるスマホを使ってもだいぶ余裕があるのでは?と思う人もいるかもしれません。しかし、人は移動します。移動しても途切れることなく使えるようにするため、接続先である基地局というのは余裕を持たせないといけませんので、こういった設計になっているため、とんでもなく余裕があるわけではないです。
で、この環境にどうやってIoT用のセンサーを繋いでいくかがこれからの課題ですが、おそらく容量的にはまだ問題ないのでしょうが、入口が少ないわけです。桁違いのセンサーが繋がってくる前提での設計にはなっていないために、これからの時代に向けて各社LPWAを駆使しながら、IoTに向けたネットワーク整備を進めようとしているわけです。
このことを見通して日本で真っ先に動いたのが、以前取り上げたSORACOM(ソラコム)というベンチャー企業ですね。彼らの登場で大手キャリアもかなり商品化を急いでいるように見えますね。
こういったことを考えていると、やっぱりソラコムはすげぇなと思うわけです。彼らへの興味が尽きません。